Zorahの制作は、NVIDIAが新たに発表したBlackwellアーキテクチャ搭載のGeForce RTX 50シリーズGPUの性能と機能を披露する最新のテックデモであり、リアルタイムレンダリングと映像表現の限界を押し広げる試みとなりました。
このデモでは、驚くほど美麗な環境表現と緻密なマテリアルが描かれており、最新のGeForce RTX 50シリーズGPU、AI駆動のレンダリング技術、そしてSubstance 3Dツールを活用した堅牢なテクスチャリングパイプラインが用いられています。これらすべてが、フラッグシップモデルであるGeForce RTX 5090上で動作しています。
Substance 3D Designerによるプロシージャルマテリアル生成から、Substance 3D Painterを用いた高精細なテクスチャ作成に至るまで、NVIDIA Lightspeed StudiosのチームはSubstance 3Dツールをフル活用することで、高速な反復制作、表現の一貫性の維持、そしてリアルタイム性能に最適化されたアセットの構築を実現しました。
今回は、Zorahの制作に携わった以下のキーパーソンたちにお話を伺いました:
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Gabriele Leone(Lightspeed Content Techチーム ディレクター)
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John Sweeney(同チーム アートディレクター)
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Pierre Fleau(3Dチーム マネージャーおよびコンテンツ制作のリード)
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Alex Liu(シニアLookdevアーティスト)
彼らに、NVIDIAがいかにしてZorahに命を吹き込み、リアルタイム映像表現における新たなベンチマークを打ち立てたのか、そしてGDC 2025で発表された最新のZorahデモを祝う意味も込めて、詳しく話を聞きました。
Leone:
私たちのチーム「Lightspeed Studios」は、NVIDIAのDeveloper and Performance Technologyグループの一部です。私たちは、テクノロジー開発からシンセティックデータ(合成データ)生成、レンダリング、グラフィックス、そしてAIに至るまで、幅広い分野に取り組んでおり、特にゲーム分野での応用にフォーカスしています。
私たちの仕事の大きな部分は、NVIDIA内の他チームとの協業によって新しい技術を構築していくことです。そして多くの場合、こうしたプロセスの中で、複数のイノベーションを統合した一つの統合的なデモが生まれます。これらのデモは単なるプレゼンテーションではなく、新しい技術を開発・統合する上で非常に重要なステップとして機能しています。ある意味で、デモの内容は技術そのものによって自然に方向づけられるため、私たちはその技術に応じて臨機応変にアプローチを変えています。
私たちのミッションの中心にあるのは、グラフィックス表現の限界を押し広げることです。最先端のニューラルレンダリング技術やAIイノベーションを活用することで、視覚的忠実度とインタラクティブ体験の未来を再定義することを目指しています。
Zorahについて
Leone:
「Zorah」は、GeForce RTX 50シリーズGPUのローンチに向けて制作されたテックデモです。これは、2025年のCESにおけるNVIDIA CEO ジェンスン・フアンの基調講演の大きな目玉となり、新アーキテクチャ「Blackwell」を初めて紹介する役割も担っていました。私たちにとっても、これまでで最も野心的なテックデモとなり、最先端の技術と圧倒的なアート表現を融合させることで、可能性の限界を押し広げようとしたのです。
CESでは、「Zorah」はステージ上のプレゼンテーションだけでなく、ショーフロアや来場メディア向けにもライブ展示されました。反響は実に素晴らしいものでした。
私たちは、これまでで最も視覚的に美しいアート表現を通じて「ニューラルレンダリング」の力を強調しました。Zorahのビジュアルは、この新技術の性能を最大限に引き出すために特別に設計されたものです。
デモ内のすべてのディテールは、「Blackwell」によって実現された革新を見せるために丁寧に作り込まれており、それらがリアルタイムで命を吹き込まれていく様子を見ることができたのは、本当に感動的な体験でした。
ニューラルマテリアル
Liu:
RTX Neural Materials デモでの私たちの目的は、AIによって加速されたレンダリング技術が、PBRテクスチャやBSDFマテリアルをどのように強化できるかを示すことでした。これにより、従来の手法ではリアルタイムでの再現が困難だったような、複雑な現実世界の視覚現象を描画することができました。
デモには2つのアセットを用意しました。ひとつは、くすんだ銀、模様入りの宝石、光沢のある木材、ほこりをかぶった絹のロープで構成された線香立て。もうひとつは、複数の異方性スペキュラローブを持つスラブドシルク(不均一の質感のある絹)です。
これらすべてのマテリアルは、Unreal Engine 5のSubstrateマテリアル機能を使い、複数の「Slab」をレイヤーとして重ねることで構築しました。そして、RTX Neural Materialsの助けを借りることで、これらの複雑なマテリアルを「ニューラル表現」として本質的にベイクすることができ、元の質感に非常に近い見た目を保ちつつ、リアルタイムでもはるかに高速に動作するようになりました。
プロジェクトの厳しいスケジュールに加え、日々アップデートされるRTX Neural Materialsとの連携が求められたため、私たちは可能な限り非破壊的なアセット制作ワークフローを維持するよう心がけました。初期モデルはアートチームが作成し、その後のすべてのモデリング修正はHoudiniで行い、テクスチャリングは主にSubstance 3D PainterとSubstance 3D Designerでプロシージャルに制作し、手描きによる作業は最小限に抑えました。
テクスチャリングについては、マスク駆動型のワークフローを採用しました。
これは、UE5のSubstrateマテリアルで複数のSlabを使用する際に、より細かな制御が可能になるという利点がありました。使用するマスクのほとんどは、トライプラナープロジェクションと、Substance 3D Painter内で直接ベイクしたハイポリメッシュのマップを組み合わせて生成しました。
手作業によるペイントは最小限に抑えられており、主に宝石に付いた指紋のような細部を強調する目的でのみ実施されました。
また、RGB Mask用のSbsarをSubstance 3D Designerで作成し、Painter内でRGBパックされたマスクのエクスポートを容易にするための仕組みも整えました。
この方法により、従来のようにPainterの出力テンプレートで3つのユーザーチャンネルを使ってから1つのテクスチャにまとめるのではなく、
エクスポートしたいレイヤーにアンカーポイントを追加し、RGB Mask内で素早く参照して1つのUser Channelにパックするというより効率的な運用が可能になりました。
Substance 3Dツール
Fleau:
テクスチャリングにおいて、Substance 3DはUnreal Engine 5とシームレスに連携できるキャリブレーション済みの作業環境を提供してくれました。これにより、チーム内および全アセットにおける作業の一貫性と効率性を保つことができたのです。
Substance 3D Designerは、チーム全体で共有されるタイルマテリアルの作成において不可欠でした。
例えば、石材の表面テクスチャは、すべての石素材要素に再利用可能なように設計しました。また、同じマテリアルに対してプロシージャルな公開パラメータを用いることで、複数のバリエーションを生成しています。
さらに、床タイル要素もDesignerで作成し、後にディスプレイスメント処理を施してからエンジンにインポートしました。加えて、土や汚れ、染みなどのデカール素材もDesigner上で作成し、すべての要素が自然に馴染むように統一感をもたせました。
Substance 3D Painterも、アセットに対して非常に高精細なテクスチャを実現する上で重要な役割を果たしました。Painterには、複雑なジオメトリの処理能力、ディテールの細かいテクスチャリング、そしてUDIM対応などの機能があり、求められるディテールレベルにモデルを引き上げるうえで極めて重要でした。
Liu:
Substance 3D Designerは、ニューラルマテリアル用アセットに必要なタイル状のベースマテリアルを一通り作成するために広範囲にわたって使用されました。
たとえば、傷のついた銀やスラブドシルク(不均一の質感のあるシルク)などがその対象です。
さらに、Designerは、Unreal Engine 5内で宝石のアステリズム効果(六条星状の光)や、木材のシャトヤンシー効果(光の筋のような輝き)を再現するために必要な、特定の形状やパターンを持った抽象的なユーティリティマップの生成にも用いられました。
制作において最優先されたのは、Substrateマテリアルのセットアップでした。
まずは、目指していた視覚効果が本当に実現可能かどうかを検証するため、そして次に、必要となるテクスチャの種類と数を見極めるためです。
このマテリアルセットアップを早い段階で完了させておくことで、Substance 3D PainterとDesignerによるプロシージャルなテクスチャ制作ワークフローと組み合わせて、プロジェクトの要件が変化しても迅速に反復・適応できる体制を整えることができました。
テクスチャリングワークフロー
Fleau:
このプロジェクトに登場するすべてのアセットは、制作のいずれかの段階で必ずSubstance 3D Painter、Designer、もしくはPhotoshopを経由しています。
Substance 3Dを使うワークフロー自体は、以前のプロジェクトでもすでに採用していたため、私たちにとって新しいプロセスではありませんでした。
今回異なっていたのは、環境全体のスケールと、そこに込めたディテールのレベルです。
私たちは、Unreal Engineにおけるバーチャルテクスチャリングの活用に完全に振り切ることを選択し、マテリアルのブレンドをシェーダー側の機能に頼るのではなく、すべてのテクスチャを個別にベイクする方針を取りました。
壁から床に至るまでのすべての要素が、スカルプトされたジオメトリと、ベイク済みのUDIMマップによって構成されています。
Fleau:
この壁の一部のアセットは、最初のビジュアルベンチマークのために制作した初期のモデルのひとつです。
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まずはBlenderでモデリングとスカルプトを完全に実施しました。
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その後、Substance 3D Designerを使って「石材」「金属」といった一連のタイルマテリアルを作成。それぞれに複数のディテールバリエーションを持たせて作り、Painterのシェルフにエクスポートしました。
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テクスチャリングはPainter内で複数レイヤーを組み合わせる形で実施。ベースとなる石材の上に金のアクセントや、複数の汚れ・風化のレイヤーを重ねることで、現実のスキャンアセットのような質感を再現しました。
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最後に、UVは6枚の4K UDIMテクスチャで構成され、それをUnreal Engineへエクスポートしています。
Substance 3D Painterの自動UV展開機能
Fleau:
金属装飾を制作する際、Substance 3D Painterの「Auto UV」機能が、私たちのツールセットにおける有用な追加要素となりました。
非常にディテールの細かい一部のアセットは、その複雑さゆえに手動でUV展開を行うと数日かかる可能性がありました。
そこで私たちはPainterのAuto UV機能を試してみたところ、わずか数秒でテクスチャリングに使えるレベルのUVが展開され、アセットの制作をスムーズに進めることができました。
もちろん、すべてのアセットにAuto UVが適していたわけではありませんが、PainterのAuto UVは、特に複雑な形状を持つ一部のアセットにおいてワークフローの効率化に大きく貢献しました。その結果、技術的なボトルネックに時間を取られることなく、アートの仕上げに集中することが可能になりました。
たとえば、コンセプトチームがデザインしたこれらの金属装飾パーツには、非常に小さく精緻なディテールが施されており、PainterのAuto UV機能の恩恵を大きく受けた代表的な例と言えます。
アートディレクション
Sweeney:
まず第一に、現実味があり親しみを感じられる環境を構築することを目指しました。ただし、それだけではなく、将来的にファンタジー世界として発展させられるような独自性も併せ持たせたいと考えていました。
そこで私たちは、装飾の豊かさやマテリアルの美しさで知られるバロック様式建築に着目しました。世界中の歴史的建造物に通じるような空間をデザインしつつも、どこか別世界にあるような感覚も残す構成にしています。また、すべてをシネマティックな視点でとらえたいという意識も強く、当時の時代背景を扱った映画作品を多数リファレンスとして参照しました。
コンセプトアーティストたちはまず、バロック建築に見られるさまざまな要素を取り入れたイメージ群を制作し、それらを一つの統一された空間に融合させるところからスタートしました。さらに、テクニカルディレクターや他のアーティストたちと密接に連携し、デザイン要素やライティングが最新のレンダリング技術を最大限に引き立てられるよう慎重に調整を行いました。
また、空間内の「微細なディテール」にも強いこだわりを持って臨みました。現在私たちが実現可能な視覚的忠実度を十分に理解したうえで、チームは遠景でも近景でもリアリティを支える「マイクロディテール」の制作に集中できたのです。
環境内のどこを見ても、必ず目を引くような細部や驚きがあり、プレイヤーを引き込むような仕掛けがあること──それが私たちの目指したビジュアル体験でした。
Concept art by Maxim Kozhevnikov, Eytan Zana, Robby Johnson & Zhelong Xu.
パイプライン
Fleau:
私たちのプロセスは、3Dコンセプトアートから始まりました。
これにより、プリプロダクションから本制作への移行が非常にスムーズに行えるようになります。3Dコンセプトは、環境チームにとって制作の土台となる指針を提供します。
また、重要なヒーローアセットは初期段階からスカルプトを施し、非常に高いディテール品質を確保します。
その後、シーン全体の3Dブロックアウトを構築し、エンジン内で早い段階からスケール感を確認しました。
このブロックアウトは、モジュール単位や個別アセットへと分割され、制作スケジュールの整理やエンジンへの統合性の向上に役立てられました。
プロジェクト内のすべてのアセットは、個別にモデリング・スカルプト・テクスチャリングされており、非常に高いディテール品質を保っています。
私たちの目標は、この宮殿を構成するすべての石が、本物のようにリアルで、かつ一つひとつがユニークに見えることでした。さらに、近接視点でもモデリングとテクスチャのディテールが損なわれないことも重要視しました。
このディテールレベルを維持するために、私たちは以下のような技術を活用しました:
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バーチャルテクスチャリングとUDIMを用いた 高テクセル密度(2K〜4K相当のテクセル密度)
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RTX Mega Geometryテクノロジーによって、必要なだけの高ポリゴン数を使用し、近接視点でもシルエットの破綻が一切生じないよう設計
私たちはまずシーンを構築し、印象的な構図やデカール、VFX(ビジュアルエフェクト)を加えることで、この場所が独自性を持ち、プレイヤーが没入できる空間として感じられるように工夫しました。さらに、複数のライティングシナリオを作成し、環境全体が没入感にあふれ、視覚的にも非常に魅力的に映るように仕上げました。
Zorahの制作では、RTX Global Illuminationを用いて、動的なシャドウを制限なく投影できるようにし、さらにNVIDIAのRTX Path Tracingによって、光が何度も反射する鏡面反射表現(マルチバウンス)を実現しました。これらのレンダリング技術には、DLSS 4の最新バージョンも組み合わせて使用しています。これらすべての技術は、Unreal Engine 5の環境内でシームレスに連携しながら動作しています。
Substance 3Dツールを活用することで、NVIDIAのLightspeed Studiosチームは、これまでにないレベルのディテールとリアリズムを実現しながら、効率的かつ非破壊的なパイプラインを維持することができました。
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